容姿・経歴・その他メモ

天才少女。己をそんな平板な四文字で定義できた彼女のひとときの、なんと幸福なことか。

生まれついて知能が特別に高かった彼女は、幼少期からその天才性を発揮して周囲を驚かせ、また喜ばせてきた。
問題があったとすれば、彼女にとってそれが当たり前のことで、周囲から特異な目線で見られているという意識が薄かったということだろう。
そのためか両親との折り合いは良くなかったようだ。彼女は殆どその当時の出来事を話そうとしないので、詳細は窺い知れないが。

そんな静が8歳を迎える頃、実家を半ば放逐されるような形で飛び出した彼女は、マンハッタンにホームステイを行った。
海外で触れた出来事の数々は静に良質の刺激をたくさん与えたが、ホームステイ先に選んだ「とある女性」を中心としたグループとの交流が特に大きかったという。静は今でも、彼女らと過ごした3年間の出来事を楽しそうに、昨日の出来事のように語るのだ。微笑ましい出来事、と言っていいだろう。本来ならば。

だがそれは、「とある女性」の名、京香・Ｔ・アーミテイジという忌み名から目を逸らすことができれば、の話だ。

静が11歳の誕生日を迎えようとしていたあの夏の暑い日、マンハッタンは崩壊し京香・Ｔ・アーミテイジは“偽神の心臓”に去った。
ほどなくして、“偽神の心臓”で一人の｜達人級妖術師《マスタークラスエージェント》の噂が囁かれるようになる。
曰く、幼き童女のごとき姿のそのエージェントは数多の魔術を行使し、“プランナー”に仇なす人の子を、時には神話生物をも屠っていくという。
“｜唯我独尊《ノーバディ・バット・ミー》”、“｜孤独なる三《ソロ・トリニティ》”、利己主義と他者憎悪の化身と呼ばれたそのエージェントこそ、静その人であった。
彼女の悪名はそれから凡そ三年の間、“偽神の心臓”にまつわるあらゆる界隈に轟いて『いた』。

――N市、｜東那岐《とうなぎ》病院、特別隔離病棟272号室。鷲塚静は今、そこに入院している。
ここに至るまでに何があったのか、彼女は多くを語らない。今はただ、ショートヘアに切りそろえた髪を指先でいじりながら、趣味の読書に没頭するのみである。

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